2026年4月24~26日にレモンガススタジアム平塚にて日本学生陸上競技個人選手権が開催された。その中で2025年世界選手権20km競歩7位入賞の吉川絢斗選手を講師に迎え、アンチドーピング講習会が開かれ、多くの学生がその言葉に真剣に耳を傾けていた。

トップ選手たちの華々しい活躍を見ると、そのパフォーマンスの迫力や豊かな感情表現に心が震わされるものだ。しかし、そのすぐ裏側にあるドーピングの影までもを覗き見ようとする者は多くはないだろう。

もしドーピング検査で陽性が出てしまったら

その選手の過去の実績は否定され、出場停止の期間もそれなりも設けられてしまう。もちろん、「しばらくその選手のパフォーマンスは見られないね」では済まない。
その出場停止期間がその選手のパフォーマンスの適齢期と重なったら最後、それはすなわち引退に直結する問題である。
アスリートたちの隘路。それがドーピングなのだ。

だからこそ監視は厳しく

もちろんドーピングは競技の公平性や神聖性などを壊す。だが、アンチドーピングの監視は何も競技を守ることだけを目指したものではない。まさに選手を守るために行われている取り組みだ。そしてそのためにWADAや国内ならJADAに代表されるアンチ・ドーピング機構が存在するのだが、その監視の厳格さは凄まじい。「居場所を常に伝えておく必要がある」ことは有名だが、「検査員がノンアポで自宅までやってきて検査を強行」など、選手のプライベート侵犯ギリギリのラインを攻める。逆に言うとそこまでやらなければ本当の意味では競技・選手を守れないということであり、かえって薬の誘惑の強大さを思い知る。

また、何も富と名声を求めて自ら薬に手を出すアスリートばかりではない。外因によってドーピングに引っかかってしまうアスリートもいる。吉川が語ったのはあまりにも意外で、恐ろしい薬の摂取経路だった。

ライバルから向けられる悪意

「例えば世界選手権などでアップをしている際に、ペットボトルの水を飲んでいるとします。そして何かのきっかけでその場を離れたとしたら、その水はもう飲めません。自分が知らない間に薬物混入があるかもしれないし、実際にそういったことでドーピング検査で陽性となったケースがあります。」

世界選手権のアップ会場に一般人は入れない。吉川は明言はしなかったが、それができるのは他の選手やコーチ、その関係者だ。

スタンドやテレビ越しに競技を見ているファンからすれば、正々堂々と日々の鍛練の成果を国を背負ってぶつけ合うその瞬間、誰かがそのクリーンさを担保している、選手たちにはそんな醜悪な悪意など全くないのだと、どこかで信じているからこそ熱くなれるというものだが、その世界観を根底から覆す、なかなかにパンチの利いたエピソードだ。

体に入れるものはすべて記録を

他にも、海外では成長を早めるために成長剤(肥育ホルモン剤など)を投与された肉があり、その成分が体内に残ったまま輸入され、それを食べた選手の体から禁止物質が検出されてしまう事例や、サプリメントメーカーの瑕疵で混入してしまった違法成分が検出されてしまう事例も紹介した。

そういった違法成分については厳密に気にするべきかもしれないが、偶発的にあるいは見えないところで混入してしまった成分については現実問題として管理に限界もある。

「だからこそ、身近なところでは『いつ、どこの店に外食に行ったか』「どの会社のどういったサプリメントを摂ったか」という記録を残しておくことが重要になってくる。例えば万が一、検査で禁止物質が出た場合、後から外食した店舗を調べて肉の成分を確認するなどの遡り対応が可能になる」と吉川は続けた。

過去には、サプリメントの会社のミスで混入した成分によってドーピング検査で陽性が出てしまったケースについては、一時は該当選手の選手資格がはく奪されたものの、サプリメントのロット番号を控えたおいたおかげで違法成分の混入がサプリメントメーカーの責任であることが証明され、スポーツ仲裁裁判所から無罪判決を受けたケースもある。

とどのつまり重要なのは選手個人のクリーンな精神性

正直、トップレベルの選手でなければドーピング検査などはほとんど無関係でいられる。しかしどれほどその競技に人生を懸けていようと、薬で得た力でトップに上り詰めれば、体に残った違法成分がいつか必ず自らを破滅に導くことになる。

「ドーピング検査を受けるのは一部の選手かもしれないが、大会に出る以上、みんなで公平に戦うことが大切。小さな記録会であっても、もし直前に使った薬の影響で記録が良くなっていたとしたら、後味が悪いし、その記録が自分の本当の実力なのか分からなくなってしまう。だからこそ、みんなでクリーンなスポーツを目指していきたい。」

アスリートとしての意地も感じられた言葉だった。

知っておきたいアンチ・ドーピングの知識

By 大澤

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