東京2025世界陸上・男子400m決勝が18日に国立競技場で行われ、中島佑気ジョセフ(23=富士通)が、44秒62で日本勢として過去最高の6位入賞を果たした。
予選で44秒44の日本新記録をマークし、準決勝でも44秒53と、44秒台中盤で揃えた見せた中島。決勝が執り行われたその日も、国立競技場には雨降る中にも関わらず満員の観客が押しかけ、日本の男子400mの歴史が動くその時を今か今かと待ちわびていた。
準決勝のタイムは決勝進出者の中では8番目のタイム。おのずとレーンは外側に振られ、9レーンでのレースとなった。しかしここはホーム国立競技場。すぐ右手側には日本の大応援団。
選手紹介の際には会場が揺れるような歓声が彼の背中を押した。
選手紹介が全て終わっても会場は落ち着かない。本来なら「静かにせよ」の合図となる「On your mark」で再び会場が揺れる異常事態。しかし中島は落ち着いていた。
準決勝時点で自分の体に蓄積した疲労がどの程度か分かっていた。勝負するためには自分にとっての勝負どころがどこになるか、レースプランが迷いなく決まっていたのかもしれない。
スタートするとおそらく多くの観衆の予想を裏切ったであろうゆったりとした走り。それでも200mを21秒5程度と一般的には相当なスピードではあるが、予選で日本記録を出したときに比べると地面を踏む力に余裕があった。
当然ながら後続の選手とのスタート位置での差は第一コーナーでぐんぐんと縮まっていく。
それを見て、あぁもうダメか、やはり世界の壁は高いのか、と思った観衆も多かろう。
しかし、何度も言うが中島がいるのは9レーン。視界には他の選手は入ってこない。疲労から勝負所は限られている。勝負するには「情報」が必要だ。しかし内側の選手が前半行く選手だとは分かっている。だから、内側の選手が出たところでどの程度のスピード感でレースが行われているかを知り、我慢すべきポイントと勝負すべきポイントを設定する。そうして自身のレースプランをより精緻化することができる。中島は前半200mを、その情報収集に費やしていたように見えた。
予想通り前半からペースを上げてツッコむ8レーンのヌドリ(ボツワナ)と7レーンのネネ(南アフリカ共和国)。
凄まじいペースで150m付近にて中島を追い抜く。そこからしばらく中島は追いつかないまでも、大きく離されないペースを設定して我慢の時間に入った。自分の強みである最後の直線に備えていた。
ホームストレートに入った時、中島は全体の中で最下位。
しかしそんな状況でもフォームの安定感とそこからくる期待感は全体1位だった。
300mを疾走し、他の選手が崩れていく中、中島は大きなストライドでぐんぐんとその差を縮めていく。
2名を追い抜き、1位のケビナシッピ(ボツワナ)とはタイム差1秒09と大きく水をあけられたものの、メダルまで0秒42というところまで世界を追い詰めた。
それでも中島は「悔しいですね。一言で言うと悔しいですけど、この日本、東京で皆さんの応援の声を背中に走れたことは本当に幸せでした」と率直な思いを語った。
コンディションについては「準決勝が終わった後は一仕事終えたなという疲労もあり、まだ興奮が冷めない中で寝て休息に入るのが難しかった」と明かしつつも、「決勝は未体験の世界でしたが、冷静に自分の戦略を信じて臆することなく走れた」と胸を張った。
「国立での決勝はもう特別。この経験は一生忘れない。こんな経験をさせていただいた全ての方々に感謝したい」と語った中島。
3本を走り切ったことで「今回表彰台を獲得した3選手と自分との差が明確になった。データを分析して、どこが足りていないのか比較できること自体が大きな経験」と前向きに捉えた。