2025年4月25~27日に日本学生陸上個人選手権が神奈川県平塚のレモンガススタジアムで開催された。その2日目、年々レベルが飛躍的に向上する男子100mの決勝が行われ、10秒19(+0.8m)で東洋大学3年の大石凌功(おおいし りく)が選手権を手にした。
前評判では圧倒的に栁田大輝(東洋・4年)が抜きんでていた。予選・準決勝と組1位、とりわけ準決勝では10秒09と好タイムを出し、決勝でのさらなる好記録へ会場の期待感も高まったものの、直後の日程で控えている関東インカレへの影響を懸念し、決勝は棄権となった。
絶対王者が不在の決勝のレースでは、ここまでのレースで10秒1台を連続して出している大石をはじめ、好調を維持している守 祐陽(大東文化・4年)や、10秒11という高校歴代2位の記録とU20世界選手権5位という実績をひっさげ、鳴り物入りで今年筑波大学に入学した西岡 尚輝(1年)が隣り合わせにスタートラインに立つ混戦模様。誰が勝つかの予想は難しかった。
号砲が鳴り、低い姿勢から一気に飛び出したのは西岡。速いピッチでレースをリードする。一方の大石・森は比較的高い姿勢からほぼ同じピッチで緩やかに展開。後半の伸びを期待する格好だ。60mを通過するころには大石の後半の伸びが西岡のピッチを上回る。勝負に絡むと思われた守はスタート直後から力みが出てスピードに乗れない。ここで勝負あり。
追い風を受けてのびやかに、かつ最もゆとりを持って走った大石が、先輩栁田の見守る中、僅差でレースを制した。
短距離部門全体として、昨年10月~11月あたりは芝生の上を中心に走ってきた。フワフワしていて、地面からの反発をもらえない。「体もあんまり動いていない状態なので、自分でしっかり足を戻してこないと、うまく進めないんです。地面を蹴らずに、前に戻すというところのトレーニングはすごくできたと思います」
大石自身は、そこで1本1本の走りを丁寧にフィードバックする術(すべ)を身につけた。「同じ練習を与えられたとしても『どういうところに意識を置いて練習するか』とか、走った後は『今の1本はどうだったのか』を考えながら戻ってきて、次の1本に臨むようになりました。本当に細かい部分を改善してきたイメージです」。今シーズンは緊張すると体が固まり、肩が上がった走りになってしまうという悪い癖が修正され、手応えを感じていた。
そしてこの練習が身体のコントロールスキルを向上させた。3本走って3本とも10秒1台という安定したタイムはよほど意識的に体が動いていないと出ない記録だ。そうなってくると名実ともに大学トップスプリンターの仲間入りと言っても誰も異論はないだろう。
大学の男子短距離に遅咲きの新星が現れたことを示すレースだった。