9/11~9/13にかけて、京都・たけびし陸上競技場で第74回全日本実業団対抗陸上競技大会が開催されている。その2日目、女子棒高跳びを諸田実咲(アットホーム所属)が自身の持つ記録を1cm更新し、4m51cmの日本新記録で優勝した。

4m20cmでの明暗

2位の愛媛県競技力向上対策本部所属の大坂谷明里が4m10cmを一度で成功させた。大坂谷の自己記録は4m25cm。今年の日本選手権で成功させたこの記録にバーの高さは近づいている。大坂谷は敢えて次の4m15cmをパスして足を温存。跳躍回数を抑えて4m20cmが決められれば、諸田との勝負は難しくとも自己記録に向けてさらなる欲を出すことができる。まさに自分との勝負となったこの高さで、4mからパスをしてきた諸田も合流してくる。

二人の勝負は以外にも3回目の跳躍にまでもつれ込んだ。
大坂谷は助走スピードが乗り切らず、理想的なポールの曲げ方を求めるとポールを立てられない。逆に諸田はスピードが乗りすぎてアップライト(ポールを刺すボックスからバーまでの横軸の距離のこと。短ければ真上への跳躍に近くなり、遠ければ跳躍の頂点を跳躍者から見て前方に持ってくる必要がある)に合わせられない。
ただ、この差は大きく、圧倒的に諸田の方が有利だ。

おそらく、体重比で言えば大坂谷より諸田の方が硬いポールを使っている。硬ければ硬いだけ曲げにくく、溜めの時間が短くなってコントロールが難しくなる反面、反発を受けやすいため手を離した時の上への推進力は大きくなる。またスピードがあればその硬さでも曲げることができ、そのまま上への推進力に変換されやすい。
逆に柔らかければスピードがない選手でもコントロールがしやすい反面、上方への推進力は弱くなる。

大坂谷が特別に柔らかいポールを使っているというわけではない。
ただし、助走スピードと体重比でのポールの硬さがこの時点でマッチしかかっているのは諸田の方だった。

圧倒的な日本新記録樹立まであと一歩だった最終跳躍

4m20cmの3回目の試技は、うまく調整した諸田だけが成功。この時点で優勝を決めた。
そこから「記録は狙っていなかった」という言葉とは裏腹に、戦略的に高さを積み上げていく。
4m35cmを1回目で成功させると、次はいきなり日本新記録にあたる4m51cm。約15cm刻みという凄まじいスピードで高さを上げていく。

調子がいいのは傍から見て分かっていた。接地時間の短い助走、実際に出ている助走スピード、ポールの曲げ角度とリリースするタイミングなど、何となくだが今日は日本新が出るかもな…と思わせる跳躍が続いていた。しかし簡単ではないからこそ日本記録。会場をその試技を前に緊張感が包んでいた。

諸田はそれをいい意味で裏切った。1回目の試技であっさりと成功させ、日本新記録を樹立した。会場もYoutubeでのライブ配信のコメント欄も歓声に包まれたが、マットの上で小さくガッツポーズした諸田は、すでに次の高さを見据えていた。次の高さに申告したのは4m61cm。今しがた更新した日本記録から10cmも高くなる異例な上げ方だ。

10cmというのは定規で見ると僅かな差だが、限界のパフォーマンスから欲を出すにはかなりの高さだ。しかし、4m51cmの跳躍からは「あるいは…」という期待感もあった。それは私だけでなくギャラリーもそう感じていたように思う。

流石の高さに2回失敗して、いよいよ最終試技。
緊張感は最高潮。むしろ諦めの空気すら流れていた。
諸田が集中した目でポールを構え、走り出す。いつにも増して安定感とスピードがある。ポールを差し込むタイミングもジャスト。少し遠めに設定されたバーに勢い良く飛び込んでいく。

諸田がマットに落下したとき、揺れながらもバーは残っていた。足から腰までは完全にクリア。わずかに胸が当たり、バーは揺れていた。偉大な日本記録が誕生した瞬間だと会場は歓喜した。しかし無情にも時間差でバーは落ちてきた。落胆の声が会場を包んだ。

4m61cmを跳べば確実に世界大会の決勝に残れる。フィジカルもテクニックも決してまぐれやまやかしではなかった。その可能性を色濃く見せてくれた、素晴らしいパフォーマンスだった。

By 大澤