2024年6月14日~16日の2日間に渡って開催された陸上競技の日本学生個人選手権(@レモンガススタジアム)にて、男子100mで昨年7月のアジア選手権王者の柳田大輝(東洋大)が男子100メートルを10秒13(追い風1.4m)で制した。

柳田はこの日の準決勝では3.5メートルの追い風参考記録ながら9秒97をマーク。公認記録として記録を残すには、追い風は吹いても2.0m/sまでなのでせっかくのタイムも参考記録となる。
しかし、レース後の様子からは決勝での公認9秒台に向けて手ごたえを感じているようだった。
決勝はその準決勝のレースから約3時間後、追い風1m中盤の絶好のコンディション。スタートの号令がかかり、準決勝と同様に後半から伸びていく柳田の走りにスタジアムは期待の空気に包まれたが、結果は10秒13。残念ながらその好条件を活かすことができなかった形となった。

【決勝レース後インタビュー】

 「ここ最近は悪かったスタートが形になってしっかり飛び出せたので、良いタイムが出た準決勝はやっぱり公認になってほしかった。決勝は悪いところが出ちゃったなという感じ。準決勝の動きの再現を一番の目的としてあげていたが、それができなくてふがいなかった。とはいえ、準決勝と同じ動きができればいいと分かったので、その再現を求めてやっていければ結果はついてくると考えている。しっかりA標準切ってパリ五輪代表の切符を取りたい」

【考察:準決勝と決勝の走りの違いは?】

結論から書くが、決勝のレースの何が悪かったかというよりは、いや悪い点はあったがむしろそれをリカバリーした柳田の身体操作のセンスの良さが浮き彫りになった形となった。少しずつ説明していこう。

風力の違いは確実にタイムに影響している。しかしこの2レースでパフォーマンスが一定しているというわけではない。
簡易的な計算で計算方法も諸説あるが、準決勝のタイムを無風換算すると10.13~10.26となる。
そして上記の最速値を採用するならば、決勝と同タイムとなり、決勝は1.4mのフォローを受けている分だけパフォーマンスが悪かったということになる。追い風1.4mなら100mのタイムなら0.1秒強程度のフォローを受けているようなイメージだがそのタイム差がどこで出ているのかを考察してみたい。

準決勝と決勝の走りを比較してみると明確に違いが出ていたのはスタートから10歩目までだった。
準決勝は丁寧に力を伝えるピッチ感から始まりスムーズにピッチアップしていく初動となった。逆に決勝は初動から慌ただしく、力の伝達よりもピッチを優先した形に見えた。
結果的に、周りの選手との力の差もあるとはいえ、準決勝では20m付近では抜きんでていたのに対し、決勝では40mまでは2位から4位の選手と横並びという形勢となっている。

しかしそのような輪郭の話以上に、柳田本人が「悪いところが出た」と証言した決勝のレースでのスタートから4歩目に目が留まる。焦りからピッチを優先する一方でストライドも欲張ったのか。完全にリーチアウトし、上半身が一瞬浮いている。これは明確に加速時の失敗ムーブである。この一瞬の停滞がタイムに大きく影響し、通常なら0.3秒以上のロスが出てもおかしくない。

準決勝の動きの再現ができなかったのはその点に尽きるだろう。如何に丁寧に力を伝えるスタートが切れるか。そのためにはどういったピッチが自分にとって理想なのか。そういった確認が続けられることになるだろう。

しかし、それでも流石だと思わせるのは、リーチアウトして一度上がりかけた上半身を再び加速に向けた前傾に戻したことだ。並みの選手なら一度跳ね上がった上半身はもう戻らない。あのスタート直後の最も慌ただしい局面で、一瞬で接地位置を変える判断をし、なおかつそのイメージ通りに自らの身体を動かしながら新たに前回転をかけ直してレースに復帰する。常人では考えられないほどの身体操作のセンスを感じさせられた1歩でもあった。

By 大澤

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