日も少しずつ傾いてこようかという4/28㈯の広島広域公園陸上競技場に、村竹ラシッド(JAL所属)が慌ててやってきた。
「15:30から記者会見だけど大丈夫かな?」という懸念も案の定、間もなく「アップが終わりません!」という悲痛な叫びが記者室に届き、そこはアスリートファーストを掲げる広島陸上協会の方々である。
「待ちましょう(笑顔)」ということで私たちは彼の到着を待つことになった。
しかし彼にはそれだけの魅力がある。選手としての競技力もそうだが、思慮深さとお茶目な人柄は人々を惹きつけるのだ。30分かそこらなら待とうではないか、となったのだ。

ばつの悪そうな笑顔で記者会見室にやってきた村竹は、茶目っ気たっぷりに「お待たせしてすいません」と謝罪た。頭を上げた彼の身体を見て驚いたのは私だけではないだろう。学生の時に比べて一回りも二回りも体が大きくなっていたのだ。今年の冬は何かに取り組んだのだな、ではそれを紐解かねば。そう意気込んだところで会見は始まった。
会見の内容は以下の通り。


Q:織田記念を前日に控えた心境は?
A:織田記念は慣れている舞台ではあるので、変な緊張はないんですが、今回の試合が初戦なので、
  他の皆さんに比べるとだいぶシーズンインが遅い状況。
  あんまりはっちゃけずに(笑)、ぼちぼち走れたらいいかなと思っています。
  この大会では、まずは、無事に初戦を終えることが第一の目標です。
  昨年は雨の中で思いきり肉離れしてしまったので、今年はそんなことがないように
  予選・決勝をしっかり1本1本走って、無事にレースを終えたいですね。
  また、ここを皮切りに徐々に試合を重ねていいタイムを出していけたらいいなと思っているので、
  やっぱりまずは、無事に走りきりたいです。
  今年はパリオリンピックが最大の目標になるのですが、そこにピークをもっていければいいかなと
  思っているので、この大会からめちゃくちゃいいタイムを出したいとは考えていないというのが
  正直なところです。また、初戦なので自分の動きなどにいろいろ課題が残ることも多いと考えて
  います。次の試合や日本選手権、パリオリンピックにつながるような”いい課題”を、ここで見つけたいですね。そこを確認しつつ、試合をこなしていきたい。

Q:一回り身体が大きくなったように見えるが、昨年からどのような取り組みをしてきたか。
A:今年の冬季練習では、特にウエイトトレーニングのクリーンを練習して、
  重さもかなり上がるようになり、そのことでレースでも最初の1歩目が、以前よりも強く出られる
  ようになりました。
  今日の(前日)練習でも、スタブロをいい勢いで飛び出すことができているので、
  明日のレースは、そこを見てもらえたらいいなと思います。

Q:今日の練習ではスタート以外ではどのようなところを確認したか。
A:今日の練習では身体の可動域を確認しました。
  今日は「身体を大きく動かそう」ということにポイントをおいて、ウォーミングアップから
  ハードル練習までをしっかりやったので、明日はその可動域をしっかりと出したうえで、
  キレを出していければ…。
  感触としては、「ぼちぼちかな」といったところですね。
  初戦ということもあり、「まだ身体が動かないな」という感じもします(笑)が、
  いい形でこの大会を迎えられたかなと感じています。

Q:今年から社会人ということで環境などの変化はあったか。
A:春から順天堂大学からJALへと所属先も変わって気持ち新たにという感じでがあるんですが、
  正直なところ練習の拠点は順天堂大学のまま全く変わっていないので、環境が変化したというのは
  あまりないんですよね。なので、今まで通りに試合に臨めればと思っています。

Q:大学の先輩でもある泉谷駿介選手(住友電工)の活躍を見てどう思うか。
A:昨日、泉谷さんも走っていらして(蘇州ダイヤモンドリーグ2位)、自分もそのライブ配信を僕も
  見ていたんですが、すごく刺激になるような走りで「自分も早く走りたいな」と思いました。
  僕は、まだまだ男子ハードル陣のなかでは幼いというか(笑)、全然年齢も行っていないという
  こともあり、泉谷さんはじめ本当に尊敬する先輩方ばかり。
  普段の練習でもこうした前日練習などでも、動きであったり立ち居振る舞いであったり、
  本当に学ぶべきことが多いです。そうした方たちと競技をやれて本当に幸せだなと思うし、
  だからこそ簡単には負けたくとは思っています。


記者会見から一夜明け、レース当日はどうなったかというと、雨が降りしきる最悪のコンディションの中、
 予選:13.43(向かい風0.7m)➡組1位
 決勝:13.29(向かい風0.6m)➡優勝
となった。

会見での発言通りに瞬発力の向上がはまったのか、スタートの1歩目から他の選手に差をつけ、その時点で勝負ありという圧巻の2レースだった。特に決勝では「スタートはしっかりスピードとパワーを使って出て、中盤はゆったりリズムに乗りました。後半、スタミナがもたないかと思ったら、思ったよりスピードアップして耐えきれずに転びました」とレース後語ったように、もともと「無事に走り切る」ということを目標に掲げていたにも関わらず、ダイナミックな動きでレーンを駆け抜け、最後はダイビングゴールで勝利を手中に収めた形になった。
思えば当日は雨、しかも風は向かい風。その条件下では非常に良いタイムだと言える。
これが初戦だというのだから、パリへの展望も視界は良好だ。


By 大澤

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