令和3年9月17日~19日にかけて、埼玉県熊谷スポーツ文化公園にて第90回日本学生陸上競技対校選手権大会(通称:日本インカレ)が開催された。
本記事では、その取材記としてつらつらと記載していくこととする。

■徹底したコロナ感染対策

昨年の日本インカレに引き続き、今年もコロナの感染対策が徹底されていた。
無観客での開催は引き続きだが、昨年からの大きな違いとしては
①体温管理アプリの導入
②アルコールシートの配布
③城内でのマスク着用の声掛けの徹底
が追加された。

①についてだが、そもそも大会2週間前から体温管理については昨年からも変わらない。しかし紙フォーマットに直接書き込むスタイルから、アプリでの管理となったことで管理コストが大幅に削減された。
②のアルコールシートは観客席に座った後に自身がいた場所を消毒するために配布された。無観客試合だったとしても、指導者や自分が出場していないときの競技者はスタンドに座って観戦することになる。そういった人を対象にした対策だった。
③は昨年もないわけではなかった。②でも触れたように、コロナ禍で開催とはいっても、どうしても完全無観客というわけにはいかない。よって、係員による声掛けは引き続きという対応だったが、今年はその厳しさが増していた。
フィールド種目などでは試技が終わると選手がスタンドに近づき、コーチ・監督に助言を仰ぐというのは頻繁に見られる光景だが、熊谷は比較的フィールドとスタンドの距離が離れているため、うっかりマスクを外してしまった指導者もいたのだろう。
そのたびに係員からの怒号が飛んでいた。

■レース中の音楽演出は取りやめ

昨年は直前まで無観客となるかが曖昧だったため実施したが、今回は初めから無観客となることが分かっていたため、実施しなかったとのことだった。
個人的には盛り上がりも出るので、素晴らしい演出だと感じていたが、来年の開催の際にはコロナの沈静化が進んでいることを祈るとともに、そういった観点も含めた盛り上げ施策を打ち出してもらいたいものである。

■ストリーミング放送の視聴者目線での大会運営

日本インカレともなると、出場するだけで大学陸上では名誉なことだ。応援する者は余すところなく応援したいし、特定の選手を応援しているわけではなくとも、陸上ファンなら全種目を観たいという人もあるだろう。
そういった意味ではフィールドへ繋がる唯一のチャネルとなったストリーミング放送の意味は非常に大きい。
可能な限りのコンテンツを放送できるよう、選手紹介や表彰時は中距離までの短距離一発集中型の種目は実施しない形となり、素晴らしい配慮だと感じられた。
ただ、現場の係員との連携がうまくいっていなかったのか、男子110mH予選では雨がちらつく肌寒い天候の中、他の種目の選手紹介によってレース直前のユニフォーム姿の選手たちがそれを待たされるという事態が発生していた。
「すべての選手にスポットライトを」
そのスタンスはそのままに、是非とも来年はより選手のパフォーマンスが100%発揮できる運営に取り組んでもらいたい。

■気になった競技役員の立ち振る舞い

現場の運営というと気になったのは競技役員の立ち振る舞い、特に補助員学生への対応であった。
「●●出せ!」
「●●持って行け!」
命令口調が目に余るものだった。

人員に関する詳細情報は不明だが、少なくとも地方自治体から派遣されることなどないし、開催地である埼玉県陸上協会の人間で全ての運営業務を賄うことはできない。
よって、周辺の学校の陸上部顧問など教員が日本学生陸上連合や地域の陸上協会などから要請を受けて、競技役員として出張るケースなどがある。
そういった形で様々な人間がスポット的に集まって大会運営をするのが常だ。
ただ、よりスポットで競技運営の手伝いをしなければならない学生補助員は現場の指示系統も見えなければ、不明点を誰に聞けばいいのかも分からない。
競技そのものは普段から見ているから、ざっくりとは運営の仕方は理解していても、細かなところの勘所はつかめていない。
競技役員は少なくとも日頃顔を合わせるメンバーなのだから、そういった相手に対しては大人の余裕が見える対応見せてほしかったというのが本音だ。

競技が始まってバタバタするなら、事前にどういった作業が発生するのかというレクチャーを実施するなど、当たり前の対応が必要だろう。
これは今回のインカレの話というよりは埼玉で開催される競技会すべてに言えることで、
競技役員は大学生に限らず中高生に対しても「本来なら自分が出たかった大会に出らなかったにも関わらず、補助員に回って自分たちなりに奔走してくれているのだ」ということを理解し、補助員に敬意を持って接してもらいたい。

■好記録続出の代償に故障者続出

今大会は好記録が続出した。全種目を通して、9つの大会新記録と3つの日本学生新記録が生まれた。(同種目内で複数回更新されたものも延べでカウント)
特に男子三段跳びで17m00cmを記録し、大会新記録・日本学生新記録を樹立した近大高専の伊藤陸に関しては、走り幅跳びでも8m05cmで優勝しており、走り幅跳びで8mオーバー、三段跳びで17mオーバーを果たしたのはの国内史上初の快挙だ。
ちなみに、大会新記録・日本学生新記録が樹立された種目は以下の通り。
【大会新記録】
・男子110mH    泉谷駿介(順天堂大学)
村竹ラシッド(順天堂大学)
・男子三段跳び   伊藤陸(近大高専)
・女子100mH    芝田愛花(環太平洋大)
・女子3000mSC 吉村玲美(大東文化大)
・女子10000m   鈴木優花(大東文化大)
・女子4×100mR  福岡大学

【日本学生新記録】
・男子三段跳び   伊藤陸(近大高専)
・女子3000mSC 吉村玲美(大東文化大)
・女子4×100mR  福岡大学

一方で、その選手たちの頑張りは多数の故障者数にもなって顕在化していた。
3日間で合計21名のスポーツ障害受傷者が医務室に運び込まれた。しかもそれはあくまでも医務室に運ばれた数であって、純粋な受傷者数ではない。医務室へ行くか尋ねる医療スタッフに、もう競技を終えたから自分でケアする、とそれを断る選手は何人もいた。よって、歩けないほどではないが怪我をした選手は数えきれないほどいて、その中でも担架や車いすがないと動けないレベルの怪我をした選手が少なくとも21人いた、ということなのだ。

立て続けに車いすや担架が往来するシーンも目の当たりにし、会場の空気が見るからに重苦しくなったシーンもあった。
学生陸上の最高峰で、光と影を見た気がした瞬間だった。

さて、気持ちを切り替えて次の記事では、女子3000mSCでの日本学生新記録樹立を支えた、吉村玲美(大東文化大)の技術に注目していくことにしよう。

By 大澤

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